太地のイルカ活動家に伝えたいメッセージ(その2)

 太地で活動する海外のイルカ活動家たちはしはしば「太地から出て行け」とイルカ猟擁護派から巨大な拡声器で口汚く罵られてきた。それらは議論と言う にはあまりに幼稚且つ拙劣であり、イルカ活動家たちにとっては日本のイルカ解放のための信念と確信を 深めることはあっても、彼らを太地から退去させるには少しの影響も与えていないのではないかとさえ思われる。このような 拙劣きわまる「意見」 に耳を貸す必要はないが、私はあえてここで、活動家の同志たちに深い敬意を持って「イルカ活動家が太地を去るべき理由」を挙げたいと思う。
 私の考えを述べる前にまず、日本で実際にイルカ猟が行われている場所について多くの人が誤って認識していることを指摘しなければならない。現在和歌山県の追い込み猟で捕殺されているイルカは日本全体のイルカ捕殺数の約8分の1にしかならない。(2012年、日本全体のイルカの捕獲枠は16,497頭。その中で和歌山県のイルカ追い込み漁業の漁獲枠は2,013頭にすぎない。)日本のイルカ猟の主流は「突きん棒」であり、岸辺から双眼鏡で見ることのできない、はるか沖合いで猟が行われている。北海道でもイルカ猟は依然としておこなわれており、一時期は津波で壊滅的打撃を受けた東北地方(主に岩手県)のイルカ猟も急速に回復しつつある。太地のイルカ猟は沿岸のひとつの小さな湾の中で虐殺が行われているという単純な理由から人目に触れやすく、結果、映画「ザ・コーヴ」の撮影対象にもなった。しかし、より大きな悲劇は太地ではなく、まったく別の場所で行われている。我々はその事実にまず留意しておかなければならない。
 現在、これほどまでにイルカ活動家が太地で活動するようになったのは、イルカ猟反対派による致命的な誤解に由来する。そもそも太地ではイルカを「食べるため」に猟をしているわけではないのである。「太地ではイルカを食べるために猟をしている」という情報はメディアのミスリードによるもの。つまり、「イルカ食の伝統を守るべきである」というひとつの命題は、イルカ猟推進派による問題のすり替えにすぎないのである。1960代後半を境に太地で捕鯨のスタイルは大きく変化している。当時の町長が太地を捕鯨の町として 「町おこし」の材料にしようと、1969年にイルカの馴致施設を備えた「太地町立くじらの博物館 (Taiji Whale Museum)」を建設した。「馴致施設」とはイルカを飼い馴らし、イルカショーのために国内及び海外に転売できるよう訓練するための施設である。2014年現在、施設を備えイルカを飼育しているのは、世界でも日本の太地町のみである*1。容姿端麗で人によくなつく従順なイルカを捕獲するためには、その何倍ものイルカを捕獲しなければならない。イルカの追い込み猟はイルカに傷を付けないための唯一且つ最良の猟法である。結果、漁師は少数の、水族館に転売するためのイルカを捕獲するために、夥しい 数のイルカを捕殺することになる。太地におけるイルカ食の需要はこうした町おこしの結果、「人為的に創出されたもの」である。太地のイルカ食は 伝統でも文化でもなく、この1969年という年を起点に始まった「悪習」である。あくまで水族館ビジネスがイルカ猟の主目的であり、イルカ食は副産物にすぎない。いわば、「おつり」である。それゆえ、「イルカを食べないで」といくら町の人たちに訴えかけたところでイルカ猟は決してなくならない。町の人に声は届かないのである。
 私たち活動家が訴えるべきは水族館ビジネスの廃止である。そのためには国民を啓蒙する必要がある。国民に対して根気強く「イルカショーのチケットを買わないで」と訴えることこそがイルカを守るための正道であり最も有効な手段なのである。決して短い道のりではないが、無駄な活動ではない。 現に韓国では行政と知識人、市民団体との長い議論の末、イルカショービジネスからの撤退に成功している例がある*2。海外のイルカ活動家が太地でデモをし、モニターをし、スパイまがいの活動をしているのは、残念ながら筋違いな活動と言わざるを得ない。太地については監視も必要な側面はあるが、外野やマスコミを煽る負の効果のほうがはるかに大きく、なかんずく税金の拠出根拠にされていることには言及せざるを得ない。 このことに、イルカ活動家であるなら無関心であってはならない。我々が向かうべきは太地ではなく、日本全国に52か所、そして世界各国に存在する水族館 (Dolphinarium)である。需要があるからこそ供給がある。イルカショーとは倫理や文化の問題ではなく、ビジネスの領域に属する問題である。イルカ猟が税金と生体販売の売上で維持されている以上、海外の環境保護団体は「チケットを買わせない」活動にリソースを集中すべきである。問題を解決するためには問題のルーツを見極めなければならない。

 

*1:韓国では蔚山市長生浦の「クジラ生態体験館」の前、3500平方メートルの広さの土地に、横20メートル、縦30メートル、深さ3メートルの馴致施設 を建設する計画があったが、市民団体の反対により建設は見送られた。<a>http://japanese.yonhapnews.co.kr/headline/2011/02/11/0200000000AJP20110211001100882.HTML</a>
*2:「動物虐待...ソウル市、結局イルカショー中断へ」=中央日報(2012年5月10日)<a>http://japanese.joins.com/article/886/151886.html</a>

海洋哺乳類を守る会 代表
森岡敏明